葬儀を終えて一息つく間もなく、遺族には多岐にわたる公的手続きが待ち受けています。これらは期限が設けられているものも多く、計画的に進めないと後々面倒なことになる可能性もあるため注意が必要です。まず、年金を受け取っていた場合は「年金受給権者死亡届」を提出します。これは厚生年金なら10日以内、国民年金なら14日以内と期限が短いため、優先的に行いましょう。故人が世帯主だった場合は、市区町村役場で「世帯主変更届」を14日以内に提出する必要があります。健康保険についても手続きが必要です。国民健康保険の場合は資格喪失届を14日以内に、会社の健康保険に加入していた場合は勤務先を通じて手続きを行います。生命保険に加入していた場合は、保険会社に連絡し、必要書類を取り寄せて保険金の請求手続きを進めます。これは時効があるため、早めに着手するのが賢明です。また、電気、ガス、水道、電話、インターネットといった公共料金やサービスの契約者名義の変更または解約手続きも忘れてはなりません。銀行口座は、死亡の事実を銀行に伝えた時点で凍結されるため、相続手続きが完了するまで預金の引き出しや解約はできなくなります。遺産分割協議が整い次第、必要書類を揃えて名義変更や解約手続きを行います。その他にも、運転免許証やパスポートの返納、クレジットカードの解約など、故人の契約関係を一つずつ確認し、整理していく作業が続きます。これらの手続きは非常に煩雑で時間もかかりますが、チェックリストなどを作成し、一つずつ着実に終わらせていくことが大切です。
遺影はもう大きくない？小さなサイズが選ばれる理由
「葬儀の遺影」と聞くと、多くの人が、黒い額縁に入った大きな肖像写真を思い浮かべるのではないでしょうか。かつては、立派な祭壇に飾られた「四つ切り」サイズの大きな遺影が、葬儀のスタンダードでした。しかし、その常識は今、大きく変わりつつあります。近年、L判や2L判、ハガキサイズといった、従来では考えられなかったような「小さな遺影」を選ぶ人が増えているのです。この背景には、日本の葬儀文化と家族のあり方の変化が深く関わっています。最も大きな要因は、「家族葬」の普及です。広く告知を行い、大勢の弔問客を迎える一般葬とは異なり、家族葬はごく親しい身内だけで、こぢんまりと故人を見送る形式です。参列者が少ない小規模な式場では、大きな遺影はかえって圧迫感を与えてしまいます。アットホームで温かい雰囲気の家族葬には、大きな肖像写真よりも、さりげなく飾れる小さな写真の方が似合う、と考える人が増えたのです。また、「住宅事情の変化」も無視できません。葬儀を終えた後、その大きな遺影は自宅に持ち帰ることになります。しかし、現代の住宅では、仏間や床の間といった、大きな遺影を飾るための空間がない家も少なくありません。「立派な遺影を作ったはいいけれど、飾る場所がなくて押し入れに眠っている」という声は、実は非常に多いのです。それならば、最初からリビングの棚や本棚にも自然に置けるような、小さなサイズの遺影を選びたい、というニーズが高まっています。さらに、「価値観の多様化」も、遺影の小型化を後押ししています。故人らしさを大切にする風潮から、かしこまったお見合い写真のような遺影ではなく、旅行先でのスナップ写真など、自然な笑顔の写真を遺影にしたいと希望する人が増えました。そうした写真は、大きな額縁に収めるよりも、手軽なフォトフレームに入れて、他の思い出の写真と共に飾るスタイルの方がしっくりくるのです。遺影のサイズの変遷は、儀礼的な弔いから、よりパーソナルで心に寄り添う弔いへと、日本人の死生観が変化していることの、確かな証左と言えるでしょう。
枕飾りの意味と役割をわかりやすく解説します
人が亡くなってからお通夜までの間、ご遺体を安置した枕元に設えられる小さな祭壇のことを「枕飾り（まくらかざり）」と呼びます。これは故人があの世へと旅立つための最初の準備であり、遺された家族が故人と過ごす最期の時間を支える、非常に重要な意味を持つものなのです。枕飾りは、一般的に白木の小さな机の上に、香炉、燭台、花立の「三具足（みつぐそく）」を基本として飾られます。燭台に立てられた蝋燭の灯りは、故人の旅路を照らす道しるべとなり、香炉から立ち上る線香の香りは、故人と私たちのいる空間を清め、仏様の食事になるとも言われています。また、花立には樒（しきみ）や白い花を供えます。これらに加え、仏式では「一膳飯」や「枕団子」、そして水やお茶などが供えられます。山盛りに盛られたご飯に箸を一本立てる一膳飯は、故人が生前最後に食す食事であり、あの世への旅の弁当であるとされています。枕飾りは、故人が寂しくないように、そして迷わず旅立てるようにという遺族の祈りが込められた装置なのです。この枕飾りが設えられた空間は、単なる儀式の場ではありません。親しい人々が弔問に訪れ、線香をあげて静かに手を合わせることで、故人との最後のお別れをするための大切な場所となります。そして何より、遺族にとっては、慌ただしい現実の中で、故人の死を少しずつ受け入れ、心を落ち着けて向き合うための、かけがえのない時間と空間を提供してくれるのです。
樹木葬や納骨堂の永代使用料はどうなっている
従来のお墓のイメージといえば、墓石を建ててその下にお骨を納めるというものでした。しかし近年、ライフスタイルの多様化や核家族化を背景に、お墓の形も大きく変化しています。その代表格が「樹木葬」や「納骨堂」です。では、こうした新しいタイプのお墓における「永代使用料」は、どのようになっているのでしょうか。実は、樹木葬や納骨堂の場合、「永代使用料」という言葉が使われることはあまり多くありません。代わりに、それに相当する費用は「永代供養料」や単に「使用料」といった名目で、管理費や供養料など全てを含んだ「一式料金」として提示されることが一般的です。これは、これらの新しいお墓が、そもそも「継承を前提としない」永代供養の仕組みを内包しているためです。樹木葬は、墓石の代わりに樹木をシンボルとし、その根元に遺骨を埋葬するスタイルです。納骨堂は、屋内の施設に設けられた納骨スペースに遺骨を安置するスタイルです。どちらも、契約時に一括で費用を支払えば、その後の管理費が不要なケースが多く、子どもに負担をかけたくないと考える層から絶大な支持を得ています。費用の相場も、従来のお墓に比べて安価な傾向にあります。樹木葬であれば20万円～80万円程度、納骨堂も30万円～100万円程度から様々なプランが用意されています。ただし、注意点もあります。「永代」という言葉が使われていても、個別の区画を永久に使用できるわけではなく、三十三回忌など、一定の契約期間が過ぎると、遺骨は他の方々と一緒に合祀墓へ移されるのが一般的です。従来のお墓の「永代使用料」が、家族が代々使い続けるための権利料であるのに対し、新しいお墓の費用は、一代限りの安心を買うための料金、という性格が強いと言えるでしょう。