夏のビジネスシーンでは、ノーネクタイ、ノージャケットの「クールビズ」が完全に定着し、社会的な常識となりました。この流れは、私たちの服装に対する意識を大きく変えましたが、一方で、伝統的な格式が重んじられる葬儀の場において、新たな戸惑いを生んでいます。クールビズという新しい常識と、葬儀という古い伝統。私たちは、この二つの価値観が共存する時代に、どう向き合っていけば良いのでしょうか。現状では、先に述べた通り、葬儀における服装マナーは、クールビズの例外とされ、季節を問わず正装(ネクタイ、ジャケット着用)が求められるのが基本です。これは、葬儀が単なる集会ではなく、故人の尊厳を守り、深い敬意を表すための「儀式」であるという、その本質的な性格に基づいています。個人の快適さよりも、儀式の格式と伝統が優先されるのです。しかし、近年、これまでに経験したことのないような記録的な猛暑が続く中で、この考え方にも少しずつ変化の兆しが見られます。熱中症で倒れてしまっては、元も子もありません。参列者の健康を気遣うご遺族が、「クールビズで」と案内するケースは、今後さらに増えていくと予想されます。この流れが示唆しているのは、マナーが固定化された絶対的なものではなく、時代や環境の変化に応じて、柔軟に変化していくものであるという事実です。そして、その変化の中心にあるべきなのが「ご遺族の意向を最大限に尊重する」という姿勢です。これからの時代の葬儀マナーは、「ルールで決められているから」という思考停止ではなく、「ご遺族はどう考えているだろうか」「この場で最も大切なことは何か」と、常に相手の心を思いやること。その上で、伝統に敬意を払いながら、状況に応じた最適な服装を主体的に選択していく能力が、私たち一人ひとりに求められていくでしょう。
クールビズ時代の葬儀と服装マナー