私が葬儀のカバンで大失敗した話
それは、まだ私が社会人になりたての頃、初めて一人で参列した友人の祖母の葬儀での出来事でした。喪服や靴は母に言われて何とか揃えたものの、カバンのことまで頭が回っていませんでした。当日、私は普段通勤で使っている、少し大きめの黒い革製のトートバッグを持って会場に向かってしまったのです。そのバッグには、ブランドのロゴが型押しされ、持ち手にはゴールドの金具がキラリと光っていました。会場に着き、受付の列に並んだ瞬間、私は自分の犯した過ちに気づきました。周りの女性参列者が持っているのは、一様に小ぶりで、金具も目立たない、布製のフォーマルバッグばかり。その中で、私のカジュアルな通勤バッグは、まるで闇に浮かぶネオンサインのように、場違いな輝きを放っているように感じられました。焼香の際も、その大きなバッグの置き場に困り、足元で何度も倒しては音を立ててしまい、恥ずかしさで顔から火が出る思いでした。ご遺族にご挨拶に伺った時も、バッグのことが気になってしまい、心からのお悔やみを述べることができませんでした。故人を偲び、悲しみに暮れるご遺族に寄り添うべき場で、私は自分の持ち物のことで頭がいっぱいになっていたのです。この苦い経験は、私にマナーの本当の意味を教えてくれました。それは、単にルールを守ることではなく、その場の空気を壊さず、主役である故人とご遺族に最大限の敬意を払うための「思いやり」なのだと。たかがカバン一つ。しかし、その一つの選択ミスが、自分の心だけでなく、周囲の人々の心にも、静かな波紋を広げてしまうことがあるのです。あの日以来、私のクローゼットには、いついかなる時でも恥ずかしくない、一揃いのフォーマルセットが静かに出番を待っています。