うだるような暑さの中で行われる夏の葬儀。その服装マナーは、暑さ対策とフォーマルの両立という、非常に難しい課題を私たちに突きつけます。特に、首元に密着するワイシャツとネクタイは、体感温度を大きく上げる要因となり、つい軽装に流れたくなる気持ちも理解できます。しかし、たとえ真夏であっても、弔事における服装の基本ルールは変わりません。夏の葬儀で最も陥りやすい間違いが、半袖ワイシャツの着用です。ビジネスシーンのクールビズでは許容される半袖ワイシャツも、フォーマルな葬儀の場では明確なマナー違反となります。たとえ上にジャケットを羽織るとしても、腕を動かした際に袖口から肌が見えるのは礼装としてふさわしくありません。必ず、長袖のワイシャツを着用しましょう。そして、その襟の形は、季節を問わず「レギュラーカラー」か「セミワイドカラー」が鉄則です。開放的な気分になりがちな夏だからこそ、襟元が大きく開いたカッタウェイや、カジュアルなボタンダウンといった選択は、より一層だらしなく、場違いな印象を与えてしまいます。暑さ対策としては、ワイシャツの素材にこだわるのが賢明です。通気性や吸湿性に優れた綿や麻混の生地を選ぶと、着心地が大きく改善されます。また、汗ジミや肌の透けを防ぐためにも、高機能なインナーの着用は夏場こそ必須と言えるでしょう。会場への移動中など、儀式が始まる前であれば、ジャケットを脱いで腕にかけておくことは許容されます。しかし、会場の敷地内に入ったら、必ずジャケットを着用し、ネクタイをきちんと締めて襟元のボタンを留めるのがマナーです。ご遺族や司会者から「上着をお脱ぎください」という案内があった場合にのみ、それに従います。厳しい暑さの中でも、襟元を正し、身だしなみを整えること。その凛とした姿勢こそが、故人への揺るぎない敬意の証となるのです。